あやかしびと

オススメ度:★★★★★ / キャラ:★★★★☆ / シナリオ:★★★★★



※一部、ネタバレを含みます
パッと見た感じ、伝奇色が強そうな本作「あやかしびと」。
プレイ前のイメージでは、戦闘メインだと思っていたのですが、意外にも序盤から中盤にかけての、学園コメディの方が気に入りました。


みんな地味すぎ!!

戦闘時のイベントCGが、技を放っている瞬間を捉えたモノばかりで、
技と技の激突を描いたCGがなかったことが、原因の一つです。
攻撃する瞬間の絵だけでは、戦闘が単調になりがちです。

ただ、CGの問題もあるのでしょうが、キャラクターの能力設定にも改善の余地はありました。
妖怪だ人妖だと、わりと何でもありの設定なのだから、それならいっそ、もっともっと派手に描けば良かったと思います。
一奈と零奈に、炎を出す、吹雪を出す、以外に技らしい技がないのは寂しいし、愁厳と刀子の必殺技が地味なのも残念でした。
べつに一振りで三人斬れとか、神速で動けとか言うつもりはありません。
しかし、それにしたって、刀子の抜刀術は酷すぎました。

刀に鞘を引っ掛けて射程を伸ばし、鞘の先っちょで殴るだけとは、
いくらなんでもここ一番に放つ必殺技としては、ビジュアル的に厳しいものがあります。
一乃谷流は妖を倒すための剣術で、妖の中には手足の長いものが存在する。
だから、間合いを広げるために編み出されたのが、この抜刀術なんだ、と。
理屈は分かるのですが、「人類最速の居合斬り」と前置きしてプレイヤーを煽った結果がこれでは、どうにも納得いきません。

主人公が弱すぎるのも、作品の地味さに大いに影響していました。
せっかく、八咫雷天流を教わったのに、実践で修行の成果がほとんど発揮されないのではつまりません。
新たに教わった八咫雷天流と昔に教わった九鬼流の融合で、
自己流の技を閃くのではないかと期待を膨らませながら読んでいただけに、よけいに残念でした。
かろうじて記憶にあるのは、車上で闘うときに、今までまるで歯が立たなかった九鬼耀鋼に一矢報いたことくらいでしょうか。

戦闘に関して素人である主人公が、八咫雷天流を教わることで、
戦ってもどうにかこうにか死なない程度に強くなったという理屈は分かります。
分かるのですが、納得することと、面白いと感じることは別です。
強くなりそうで強くならないのが、歯痒くて仕様がありませんでした。

TRUEシナリオで「九鬼耀鋼と如月双七の師弟対決」が不完全燃焼で終わってしまったこともそうです。
悪鬼に成り果てた九鬼耀鋼。
これ自体は悪くないのですが、姿形だけでなく、心までもが完全に怪物になってしまうのには物足りなさを感じました。
表面上は師弟対決に変わりはないけれど、心と心の激突が描かれないのでは盛り上がりに欠けます。

ようやく弟子が成長して来てみれば、師匠は既に正気でなくなっている。
そのすれ違いこそが風情だろう、と普段の僕であれば言っていたのかもしれませんが、
本作の場合は、残念ながら作風が違いすぎました。
細やかなことをするならするで、徹底しきれていないのがいけませんね。
たとえば、Hイベントを入れるタイミングがそうです。
物語終盤、敵陣営に乗り込み「さぁいくぜ!!」とプレイヤーの気持ちが最高潮に盛り上がるはずの場面で、
ポンッと投入されるエロシーンはどうでしょうか。
敵の本部で3Pするなんて、雰囲気をぶち壊しです。
捕まって陵辱されるのとはワケが違います。
細やかさと大雑把さが入り混じる雑多な文章で、どちらの感性に合わせて読めば良いのか戸惑うことが多かったです。


総評 ★★★★★

ラストバトルの、機械と同化した主人公の無機質な戦闘では、盛り上がったら良いのか、
悲しんだら良いのかよく分からなくて、頭の中が真っ白になりました。
オートで流れるテキストと軽快なBGMと。
少し早めに流れるテキストは全然頭に入ってこないのだけれど、
戦いの様子と、物語がこれで最後なのだということだけは、はっきりと伝わってきました。
変てこな構図で、たぶん上手くはないのだと思います。
でも、最後の最後で、本作の目指していたテンションや出そうとしていた味が、
ほんの僅かではありますが理解できた気はしました。

ひょっとすると、伝奇バトル物であることを意識して読まないほうが、楽しめる作品だったのかもしれません。
派手な必殺技はないし、暑苦しい師弟対決もないし、最後の戦いだって変だし。
上手くは言えませんが、全てが王道から外れていた印象です。
戦闘に関しては、ほとんど全部が期待はずれだったと言っても良いくらいですが、
期待はずれの展開が予想外の展開でもあって、それが個性になっていました。

キャラクターだってそうです。
最初はパッとしなくて、変なやつ等の集まりくらいにしか思っていなかったのが、
一つイベントをこなし、一つエンディングを向かえるたびに、どんどんキャラクターに箔が付いてくるんですよ。
感想の初めに、学園コメディのほうが気に入りましたと書いたのはそういうことです。
主人公たちの間に流れる親密な空気が居心地良くて…、良い意味で「主人公の友人」と一括りにしてしまいたくなるような……。
絆を感じさせてくれる登場人物たちでした。

戦闘描写があーだこーだと不平を言っても、これだけの長いテキストを、
最後まで飽きずに読むことが出来たのは、結局、本作が面白かったからに違いありません。
本作が、まだ2作目の新しいメーカーさんなので、これからが楽しみです。





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