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オススメ度:★★★★★ / キャラ:★★★★☆ / シナリオ:★★★★★



主人公は吸血鬼で、優しい心が欠如しているという設定。
ついでに幽霊が見える特殊体質付きです。

盛りだくさんな設定ですが、8割くらいは心の欠如がベースの話でした。
“斜に構えた主人公”作品のわりに、主人公が“ナルシストっぽくない”のが珍しくて、新しい視点の作品だと感じました。


“普通”を演じる主人公

主人公は自分のことを人とは違う“心の欠けた者”だと思っています。
カッコつけじゃありません。
本気で異常者だと信じ込んでいるんですね。

主人公の思考は、たしかに異常です。
たとえば、人を助ける理由が“ここで無視したら、のけ者にされるかもしれないから”とか“普通の人ならたぶん助ける場面だから”なんです。
助けたい気持ちがありません。

細かなところだと、浜辺で女の子が主人公にたのみごとをする場面が印象的でした。
体育座りしながら「お願いします」と頭をさげるのですが、主人公がまっさきに思うのは“窮屈そうだな”という見当違いな感想。
まあ、多少はわかります。ぼくもちょっとは考えることだと思いますから。
でも、順番的には3番目とか4番目ですよね。
真っ先に思うことじゃないですよ。

異常な心理がごく自然に、主人公が当たり前に感じたこととして書かれているのは流石だな、上手いなと感じました。


総評 ★★★★★

もっと評価されていい作品だと思うのですが、「まぁまあ」くらいの評価をする人が多いみたいです。

主人公の心理って、つきつめてみると特別なことでもなんでもなくて、わりと普通のことですよね。
ただ世の中的に、そういう“打算”は“ないことになっている”だけの話で。
だから、共感する人は少なくないと思ったのですが…。

純粋に商品としてのクオリティで評価するとBくらいが妥当なんですけどね。
面白い時間もあれば退屈な時間もあって、差し引きしたらちょっとプラスになる程度の内容ですから。

でも、現実に近いところで“表現する課題”を見つけられている作品って、そうないのかなとも思いました。
人間の観察をまじめにやっている作品ですね。
面白いかどうかは別にして“新鮮”な作品ではあります。

設定の後ろ暗いイメージとは反対に、発信しているメッセージが前向きで力強いのも好感が持てました。
本作では「人と違うこと=不幸」ではない、と言っています。
普通の人よりは幸せに遠いかもしれないけれど、それでもいつか必ず幸せになることはできる。

心を取り戻しても、吸血鬼から人間になることのできない主人公がいて。
最後にはヒロインと結ばれて、ちゃんと幸せになれている。
ものすごくベタな結論なんですよ。
“誰かを好きになることは、とても幸せなことですよ”という。
評価のイマイチなのは、結論の当たり前さにあるんでしょう、きっと。

ただ、今回ぼくが面白いと感じたのは結論じゃなくて着想の部分です。
“心のないフリ”ではなく、本当に“心のない”主人公を描く、ということ。

本作は全編を通して、ほとんど普通の学園生活しか書かれていません。
にも関わらず、普通の学園ADVとは違う“特別感”を感じられたのは、心を失った主人公の一人称が新鮮だったからなのでしょう。

面白さを読み手の側で発掘して楽しめる作品は久しぶりでした。

何にせよ、新しいことにチャレンジしている作品って希少です。
特に最近は。


キャラクター別の感想メモ(ネタバレあり&適当)





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