D.C.II 〜ダ・カーポII〜
オススメ度:★★★★☆ / キャラ:★★★★☆ / シナリオ:★★★☆☆ |
たとえば、"白河ななか"の能力は触れた人の心が読めることですが、
これは前作の"白河ことり"の能力に「触れる」という条件を付け足したものです。
ここで「ほぅ、なるほど考えよったな」と思った人は、おそらく、本作を楽しめたはずです。
前作では、能力に制限がなかった上に、ある程度読み進めないと"白河ことり"の能力には気がつけませんでした。
そのため、書く方も読む方も、能力に対して漫然としていた節があります。
書く方は、露骨に書くとすぐに気がつかれてしまうから、曖昧に、お茶を濁しつつ。
読む方は、そもそも知りませんから何も思うところはありませんでした。
でも今回は、読み手は能力のことを知っていて、書き手は、読み手が知っていることを知っているのです。
面白いと思いませんか?
書き手と読み手のガチンコ勝負ですよ、これは。
ライターさんが本来、読み手に対して持っている"タネ明かし"の主導権を放棄して、文章力一本で真っ向勝負に来ているのです。
さらに言えば、読み手は能力のことを知っていて、
書き手は、読み手が知っていることを知っていますが、書き手が書く主人公は、能力のことを知りません。
「あっ、実はここは○○なんだよなぁ」と思い、ニヤニヤしながら読むのは、
タネ明かしの驚きとは、また違った楽しみがあります。
なまじ知っているだけに、物語が少しでもその枠からはみ出た進行をすると、
それだけで新鮮味を感じてしまうことも多々ありました。
"白河ななか"の「触れないと心が読めない」という設定がまさにそうです。
前作の設定が上手い具合にマクラになっており、ちょっとしたことに意外性を感じてしまいました。
また、能力について隠す必要がないので、
ヒロイン個々の能力を積極的に話に絡めていける強みもあったように思います。
主人公も気軽に和菓子を出す魔法を使うので、
「あぁ、そういえばそんな設定あったなぁ」なんてことにならなかったのも、前作からの成長した部分です。
前作と比較して、少なくとも、奇跡オチを受け入れられるくらいには、
不思議な力や魔法が身近に溢れていたような気がします。
こそばゆ度は『2』の勝ち
設定を活かしたストーリー展開に彩りを添えるのが、調子の良い日常の会話です。
くだけた文体なので、彩りというほど上等なものではないかもしれませんが、僕は楽しく読めました。
特に印象に残っているのが、初詣に行ったとき、主人公のモテっぷりを傍から眺めていた由夢との会話です。
由夢 :「っていうか、兄さん」
主人公:「ん?」
由夢 :「いろいろ大変ですね〜」
主人公:「なにが?」
キョトンとしている俺に、由夢が溜息をつく。
由夢 :「その鈍さが、吉と出るか凶と出るか……」
主人公:「なんだ、おみくじがしたいのか」
由夢 :「違いますっ」
由夢 :「……はぁ〜〜〜〜。だめだ、こりゃ」
由夢の気苦労がなんだか無性によく分かるやり取りでした。
「初詣」と「吉と出るか凶とでるか」というセリフと「おみくじ」と
「主人公の鈍い性格」の組み合わせで、ようは簡単な言葉遊びなのですが、
このようにシチュエーションを活かしたやり取りが所々でも出てくると、
「くだけた文章」が「だらけた文章」にならずに済むような気がします。
本作は、仲間を巻き込んでワイワイやるところが特にそうですが、
テーマとは無関係な日常の遊びの部分が、前作と比べて格段に面白くなっていました。
恋に友情に「こそばゆい学園生活」を楽しみたいならこっち(D.C.2)の方が断然、格上です。
さて、散々持ち上げておいてから叩きつけるようで少し無責任ですが、
僕は一方で「良くも悪くも青春物語の垂れ流しだったなぁ」と、物足りなく思う気持ちもあります。
これは、何をどう言ったところで、本作が『D.C.〜ダ・カーポ〜』の『2』だからに違いありません。
名前負けしているのとはまた違うのかもしれませんが、僕が本作に期待していたのは、
やはり終盤の展開で、それは『D.C.〜ダ・カーポ〜』が普通の学園モノADVとは一味違ったところであったのも事実です。
前作が、どちらかというと、メッセージ性の強い終盤の展開を中心に物語を組み立てていたのに対して、
本作は序盤・中盤の「こそばゆい学園生活」を中心に書いている印象を受けました。
オチが出来すぎていたばかりに過程が埋め立て作業になってしまった『1』と、落としどころで迷走した『2』。
僕には2つの作品が対称的に思えて仕方がありません。
でも、「こそばゆい学園恋愛アドベンチャー」というキャッチコピーを尊重するのであれば
『D.C. ダ・カーポ』の真髄は、むしろ本作にこそあると言えるのかもしれませんね。
絵が足りない
イベント絵は、ヒロイン一人につき15枚〜18枚で、その内、H絵が3〜5枚ほどでした。
数字だけ見ると、決して少ない枚数ではなく、むしろ多めと言っても良いくらいです。
でも、足りません。
これは、CGが欲しくなるような楽しいイベントが盛りだくさんだったことの裏返しでもあるので、あまりうるさく言うべきところではないのですが、原画担当が「4人もいるのになぜ?」という思いは強いです。
クリスマスパーティ(学園祭みたいなもの)でのオバケ屋敷、メイド喫茶。
深夜の校舎でやった肝試しの絵も欲しいし、スキー旅行のイベント絵だってそうです。
シャッターチャンスは山ほどありました。
先ほど、男女混合でワイワイやるイベントが多くて、
そこが面白いんだ、というようなことを書きましたが、
イベントCGに関して言えば、ヒロイン単独のものが大半で、文章の賑やかさに比べると、随分小ざっぱりしていました。
内容を知らない人がCGモードだけ見たら、ヒロインと主人公2人のラブストーリーだと勘違いしそうです。
確かに、僕の記憶の中には、クラスの仲間が集まってワイワイ騒ぐ絵が何枚もあったはずなのに、
実は最初からそんなものは1枚もなかったのです。
これには思わず、「巧いなぁ」と本音が漏れました。
あるはずのないCGが「見えて」しまうくらいですから、僕の本作に対するのめり込み具合は、かなりのものです。
ところで、皆が一緒に描かれたイベントCGがない理由については、
どうやら、原画担当が「4人もいたのに」ではなく、むしろ「4人もいたから」だとも言えそうです。
たとえば、音姫と由夢の原画担当者はおそらく同じで、2人が同時に出てくるイベント絵は少なからずあるのです。
同様に、ななかと小恋、美夏と杏をそれぞれセットで担当している人がいたと思われます。
担当者さんごとに絵のタッチが違うので、素人目にもなんとなく分かります。
シナリオの構成も分岐の仕方がそのようになっています。
ただ、この分業があだになったのか、上記した組み合わせ以外でのイベントCGはほとんどありませんでした。
主人公とヒロインが付き合い始めた中盤以降ならいざ知らず、
それ以前のイベントでは何をするにも3人以上での行動が基本だったにも関わらず、です。
肝試しやスキー旅行はその代表選手ですが、他にも、抜き打ちで主人公の家に皆で押しかけたり、
昼休みに弁当を持ち寄って互いの箱をつつき合ったり、
仲間たちと過ごす日常は本作にとって欠かすことの出来ない大切なイベントでした。
学園モノにとって、日常の楽しい風景を描いたCGは、多ければ多いほどプラスになります。
「安すぎる!」という苦情が出ないように、「絵が多い!」などと苦情が出ることはまずないのだから、
絵は限界ギリギリまで詰め込んで貰いたかったです。
(とはいえ、原画担当が4人いたら単純に4倍の枚数が描けるだろう、
という丼勘定が僕の根っこにあるのは否定しませんが……orz)
もしや、原画担当者さんたちの間には「友達の彼女に手を出さない」
のと同じような感覚で「他人の描いた女の子には触らない」という馬鹿げた取り決めでもあったのでしょうか。
スキー旅行のイベントで、帰りぎわに皆で撮った記念写真が、
立ちグラフィックの合成CGであったことが、『circus』さんの連携の悪さを象徴しているように思えます。
撮影のときに杉並が、「あとで写真の右上に、俺のバストアップを合成してもらうよう、話をつけたのだ」と、
いつもの調子で、くだらない冗談を言っていましたが、何の事はない、最初から全ては合成だったのです。
総評 A→B→C
まったく期待していなかったので「思ったより面白い!」と、
好スタートを切ったものの、毎回失速する終盤の展開に評価は下がる一方。
オールクリア後に追加されるシナリオも『D.C.〜ダ・カーポ〜V』に続く伏線のようで、はっきりと消化不良でした。
のろのろと流れていくスタッフロールに向かって「えっ? 終わり??」と普通に聞いてしまったのが、
たぶん僕の本作に対する素直な最終評価なのだと思います。
「こそばゆい」というより、最後の方はちょっと「むずがゆかった」かもしれません。
日常の「こそばゆい学園生活」が良く出来ていただけに、非常にもったいない作品です。
まあ、なにはともあれ『D.C.P.C.II 〜ダ・カーポ〜II プラスコミュニケーション』の発売が今から楽しみですね。
色んな意味で(笑)
果たして、茜の巨乳が日の目を見る日は来るのでしょうか。
→番外編・キャラクター別の感想メモ(ネタバレ含む)