何処へ行くの、あの日

オススメ度:★★★★☆ / キャラ:★★★★☆ / シナリオ:★★★★☆



主人公(恭介)は妹である絵麻と肉体関係にありました。
絵麻は、毎夜、肌を重ねるだけでは飽き足らず、日々の生活の中でも恭介を独占しようとします。
目覚めのキス、校内で人目を忍んでの接吻。腕を組んで夕飯の買い物。
絵麻とこんな関係になってしまったのは、恭介が"あの夏"と呼んでいる幼少時代の夏休みの出来事が原因でした。

絵麻との自堕落な生活に疲れを感じ始めていたある日、
恭介は、過去へのタイムトリップが可能になるというドラッグ"マージ"の存在を耳にします。
過去を変えたいと思っていた恭介は、半信半疑ながらも、
売人が居るという駅前に向かうのでした。もちろん絵麻には内緒で…。
と、まぁこんな導入の作品です。


ミステリアスな文章

頭の片隅でシナリオの真相を考えつつ。
物語の鍵になりそうな言葉を拾い集めながら。
思いがけず推理に熱が入って、意識を置き去りにしたまま文章だけを先に進めてしまうことが何度かありました。

一周目でいくらか物語の核心に迫ったあと、二周目に改めて既読の文章を読み返してみると、
同じ文章でも、一周目とは違った意味に解釈出来たりします。
初めに読んだときはどうしても理解が出来なくて、
作者のミスではないかと違和感を感じていた部分に、後から合点がいくことや、
気にも留めていなかった登場人物の言葉や行動に、
実は、何かしら含むところがあったのだと気が付いて、ドキリとさせられることもありました。
日常のいたるところに、真相につながる小さな伏線が用意されており、
それが周を重ねることで小出しに出てくるように感じられる不思議な文章です。

謎解きの詰めが甘いのだけが残念でした。
物語の設定、前提として、ファンタジーやSFの要素が介入するのは構いませんが、
最後の最後、結論の部分だけは、最初に定めた範囲内で上手く処理して貰いたかったです。
書き手が、過程を面白く見せるために無理したツケを、
読み手が終盤に支払わされたような恰好で、正直なところ、裏切られたという印象が強いです。


総評 B

良いシナリオは、着想の時点で既に面白いのだと思わせられた作品。
ミステリー風の物語だから、能動的に考えながら読んでいけるのが魅力です。
読み進めるうちに、主人公たちの関係が、
実は水面下ではゾっとするほどに冷たく危ういものであることが分かるなど、読み物としての迫力も十分でした。

謎解きにもうひと工夫あれば、と。
それだけが非常に残念です。


物語の結論について(ネタバレにつきテキスト反転)
「妹が超能力者」と身も蓋もないオチだったわけですが、
もう少し「マージ」を有効に活用する展開は考えられなかったのかなと思いました。
たとえば、主人公がマージで過去へ遡るように、
絵麻や千尋がマージで過去から主人公のいる現代に帰ってきていたんだ、とするとか……。
これは僕がプレイしながらおぼろげに考えていた結末だったのですが、
真面目に当初からの枠内であれこれ想像していただけに、
ラストの真相はお茶を濁された気がして残念でした。
(←ネタバレ終了)






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