Faith

オススメ度:★★☆☆☆ / ゲーム性:★★★☆☆ / キャラ:★★★★☆ / シナリオ:★☆☆☆☆



感動だけがADVの美徳じゃない。
とはいえ、やっぱりADVの花形は感動なんだなぁ…。 ※若干ネタバレあり


相応しすぎた一言

「信頼というものはですね、私達が生きてゆく上でとても大切なものになるんですよ」
「私達が生きてゆく、前向きに歩いてゆくことができる力を与えてくれるものなんです」
「自分自身の内なる声を信頼する、それが信頼というものです」

現代っ子の僕は、お坊さんがお経を読みに来たときにお話を聞いたりだとか、そういう経験があまりありません。
だからでしょうか、羽鳥神父の説教臭い、というより説教そのもののセリフが、やけに心に響きました。

中でも、羽鳥神父が主人公に遺した「幸せになりなさい」という一言は印象的です。
主人公が召喚した悪魔のせいで命を落とすことになったというのに、最期まで父親代わりとしての役目を果たそうとする羽鳥神父の生き様に心打たれました。
意地を張っていた主人公が、最後の最後で素直になるところなども、葛藤が垣間見えて、嘘臭くないから安心して読んでいられます。

「幸せになりなさい」

あまりにも予想通りで相応しすぎる一言でした。
僕の気持ちを代弁する、羽鳥神父の言葉に、膝を打つのも忘れて、しばらく放心してしまいました。


2周目からが本領発揮

2周目はゲーム開始時の設定が少し違います。
神父さんが健在で、代わりに主人公は別の悩みを抱えているという、1周目とは違ったものになっていました。
敵だった悪魔も味方となり、その他の登場人物についても、新しい一面を垣間見ることが出来る仕掛けが用意されていました。
なかなか無茶な構成をしていますので、全てを手放して褒めることは出来ませんが、1周目に比べると3倍以上、感動できる要素があったと思っています。
色々な要素がてんこ盛りで、思いついたことは全部やってみました、という感じが同人らしく勢いが感じられて良いですね。

僕が気に入ったのは、主人公が1周目で使えなかった魔法をいとも簡単に成功させてしまうところです。
羽鳥神父が、主人公にとってどれほど大きな存在だったのか、改めて感じさせられた瞬間でした。
感動がぶり返して来て、思わず目頭が熱くなったほどです。
しかし、これだけ話の展開が変わると、1周目の話が丸ごと大きな伏線のように感じられて、2周目が特別なもののように思えてくるから不思議ですね。
悪魔に殺された神父さんが、2周目では、悪魔と一緒に楽しく食事をしているなんて、奇蹟だとしか言いようがありません。

ところで、肝心なことを言い忘れていましたが、悪魔はツンツンしている気位の高い美少女さんです。
ここ最近では一番のお気に入りキャラですね。
絵といい、性格といい、口調といい、声といい…。
って声はないのだった……。
どうやら何か聞こえていたらしい。


総評 B

評判に違わず感動しました。
返品などとんでもないことです。
ですが、「信頼とは…」と、つらつら語り始める本作のやり方が、読み物として情けなく感じたのも事実です。
僕は、登場人物が物語全体を通じて、作者の伝えたいメッセージを体現するところに、物語の面白さがあると思っています。
たっぷりと時間をかけて、登場人物の生涯、もしくは生涯の一部を刻銘に描くことこそが感動系ADV作品の本懐だと思うのです。

ゲームが終わり、何ヶ月か経ってから「信頼」という言葉を聞いたとき。
果たして、頭の片隅に『Faith』という作品の名前は浮かんで来るでしょうか…。

後々まで、余韻を残すような工夫があれば、もっと良い作品になっていたと思います。
同じく同人作品でも、『灯穂奇譚』のときには、「もっと頑張ってよ」と言いました。
本作の場合は、どっちかというと逆です。
伝えたいテーマを1個に絞って、それ以外の不要な要素を削る作業が必要だったように思いました。





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