ひぐらしのなく頃に 礼

オススメ度:★★★★★ / キャラ:★★★★☆ / シナリオ:★★★★★



※ネタバレ有り&ひぐらしをプレイ済みの人向けの感想です いやぁ、参りました。
開始から間もなく、ほんの1、2分足らずで動揺させられるとは…。

「ひぐらしのなく頃に 解」を終えたときに、薄ぼんやりと考えていた最悪のシナリオ。
せっかくの大団円だけれど、仮に、このあと突発的な事故や病気によって、
仲間の誰かが死んでしまったらどうなるのだろうか、と。

本編を推理するときは掠りもしなかったのに、こういう予想に限って当たってしまうから困りました。
運悪く、梨花がプールの帰り道に交通事故にあってしまうのです。


作者からの最後の挑戦

気絶した梨花が目を覚ましたのは、「祭囃し編」の世界とは異なる、まったく別の雛見沢。
誰にも咎のない、穏やかな時間の流れる昭和58年の6月でした。
悟史が健在で、沙都子への虐待がなくて、入江機関がなくて。
もちろん雛見沢症候群なんて奇病もありません。
ずっと「ひぐらしのなく頃に」を読んできた人なら、
それがこの上なく奇跡で幸福な世界であることは瞬時に理解出来ると思います。

と同時にハッとさせられました。
皆の悲劇と不幸の上に成り立つ「祭囃し編」を大団円だと思った僕は、
何か大きな勘違いをしていたのではないだろうか、と。
物語の最後はハッピーでしたが、皆がそれぞれに、過去に大きな過ちを犯した事実は変えようがありません。
沙都子に至っては人殺しです。
「祭囃し編」の結末は、実は、本当の意味でのハッピーエンドではなかったのです。

ただ、彼らの悲劇は物語の前提条件でもあります。
辛いことも楽しいことも、全部ひっくるめての「祭囃し編」ですから、
それを丸ごと覆して、ゲーム開始以前にまで時間を巻き戻した話をしてしまうと、収集がつかなくなるだろうとも思いました。
何度繰り返しても、鷹野の陰謀を打ち崩せないから難儀していたのに、
そもそも鷹野が暗躍しない世界があるなんて、ルール違反もいいところです。
そんな上手い世界があるのなら、最初から出し惜しみするなという話ですからね。

でも、プレイ途中は全然です。
沙都子が他人行儀なところや、魅音が詩音に変わったせいでなくなってしまった部活。
一年後にダム注水を控えて激減した人口。
そして何より、圭一の不在。
間違いだらけの雛見沢の様子に戸惑うばかりで、設定に疑問を感じるほどの余裕はありませんでした。
「一日でも早く元の世界に…」と、必死に帰る方法を探す梨花を、見守るのが精一杯。
結局それも、しばらく読み進めるうちに「(元の世界での話は)ないな」と諦めてしまい、
あとはもう「どうする? どうなる?」と、終わりまでノンストップでした。
皆で結束して、鷹野の陰謀を打ち砕いた「祭囃し編」の時点で、
僕にとっても、梨花にとっても、唯一無二の「雛見沢」が決定していたということなのでしょうね。


総評 A

梨花は最後に、元の世界と今の世界の二択を迫られることになります。
羽入によると「期日は明日の日没」まで。
しかも、元の世界に戻るためには、自分の母親を殺害しなければなりません。

今までの梨花にとっては容易い選択でしたが、偶然にも、
母親の愛情に気がついてしまった彼女は悩み苦しみます。
僕も、元の世界には戻って欲しいけれど、母親を殺して心に傷を負った梨花が戻ったところで、
そこはもう元の世界とは違うのではないだろうか、などとしばらく考え込んでしまいました。
結局、答えを出せずダラダラ続きを読み始めるのですが、
僕と違って、梨花はきちんと決断して、母と共に生きる道を選びます。

「あぁ、なるほど、そう来たか」と。

梨花がどちらを選んでいても、たぶん同じように納得したと思います。
ここは流れに乗って読みにいったほうが気持ち良いぞ、という。
無意識に、自我を殺していました。僕の場合、物語終盤ではよくあることです。
それで、流れるスタッフロールをぼんやり眺めながら、
ようやく元の世界への未練を断ち切り、いよいよ感動が押し寄せてくるかと思った頃――。

事故で気絶していた梨花がようやく目を覚ましました。
何てことはない。ただの夢オチです。参りました。

普段の僕なら「なんじゃそりゃ!」と憤慨するところでしたが、
今回に限っては、弱みを握られっぱなしというか…、痛いところを突かれたなぁと思いました。
僕自身が、それを望んでいましたから。
夢で良かったと。

梨花は、時間を遡り並行世界を行き来する自分を魔女と呼んでいました。
自分がカケラを繋ぎ合わせて世界に入ると、
元々その世界で生きていた梨花の人格を殺してしまうことになるから、だそうです。
自ら勝ち取った、たった一つの世界に執着することで、「魔女のフルデリカ」から「ただの古手梨花」に戻る。
いかにも最終回らしくて、納得できる結末でした。


夢か現実か

目覚めた梨花が羽入に、さっきの世界は夢なのか現実なのか聞く場面があります。
読む人によって、意見が分かれているようですが、僕は羽入の見せた夢だったと解釈しています。
理由はたいしたことではなくて、そうでないと、これまでの「ひぐらし」全部が、本作でプレイヤーを出し抜くための、
とてつもなく長い布石だったということになってしまうからです。

「祭囃し編」では、皆が一丸となることで、全てが解決したかのように思えました。
でもそれは、今だからこそ言えることですが、並行世界を覗き見る力を持った梨花だけが、
皆の輪から外れて、置き去りにされていた世界であったようにも思えます。
本作が、並行世界に囚われた梨花を日常に連れ戻すために、羽入の見せた夢だったとすれば、
事件とは無関係かもしれませんが、これも立派な解決編の1つと言えるのではないでしょうか。





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