カタハネ

オススメ度:★★★★☆ / キャラ:★★★★☆ / シナリオ:★★★★☆



本作は現代を描いた「シロハネ編」と過去を描いた「クロハネ編」の2部構成です。
シロ→クロ→シロと、間に過去編が挿入されます。

シロハネ編は、作家志望のワカバが史学を専攻するセロの協力を得て、
史実を参考にした新説の「天使の導き」の舞台を上演しようとする物語です。
「天使の導き」の縁の土地を旅しながら、脚本を書いて役者を探して、最後には立派に劇を成功させます。

クロハネ編は昔のお話で、シロハネ編で言うところの「史実」にあたります。
赤の国、青の国、白の国。
現代に伝わる3国の歴史が史実と違ってしまった理由の分かるシナリオです。

ざっくりとした感想を言うと、テンポの悪さが目立った作品でした。
2周目以降は、スキップで飛ばして、少し普通に読んで、
またスキップして…の繰り返しで、最悪の構成です。
全部で3周あって、シナリオ自体は後ろにいくほど面白くなるのに、
鬱陶しいスキップシーンのせいでせっかくの雰囲気がぶち壊し。
非常に惜しいことをしていました。


作家のキャラを描けないライターってどうよ?

ワカバというキャラクターがいます。
主人公の幼馴染でパン屋の娘という設定。
彼女の夢は小説家になることなのですが…。
考え方や行動が、常識外れすぎて全然ついていけませんでした。
初っ端の「演劇をやりたい」というところから、もうダメでしたね。

まず僕が疑問だったのは、親のスネをかじっているようなパン屋の娘に、
役者を雇う金が出せるのかということです。
演劇のことはさっぱり分かりませんが、衣装代だっておそらく高いのでしょう。
作中では、話の成り行きで上手いことセロの養父から援助を受けることができたから良かったものの、
そうでなければどうなっていたのか正直疑問です。

原稿をホテルに忘れたと「勘違い」して、予約した列車に乗り遅れるのもそうです。
僕はわりとマメな人間なので「援助を受けて執筆しているのなら、
原稿の管理くらいしっかりしとけよ」と思ってイライラしてしまいました。
小説家を目指しているわりに、ワカバの行動はいちいちプロ意識に欠けており、設定の説得力がまるでなかったです。
取材のために、立ち入り禁止のお城に侵入しようとする場面がありますが、
そういう無茶をやらかすことが「小説家っぽい」「業界っぽい」とでも思っているのでしょうか。
これを書いているライターさんも「プロ」のはずなのに、
何でこんなつまらないベタな描写をしてしまったんですかね。
お城の関係者に、取材意図を伝えて必死になって説得するとか、
城内の様子を知る人に話を聞くとか、正攻法の取材は色々あったはずです。
自分がライターとして得てきた経験をキャラ作りに活かせばいいだけなのに、
なんでそんな簡単なことができないのかと思ってしまいました。
身近なところに、自分という最高の取材対象があるのに、
それを無視して適当な描写で済ましていることの意味がさっぱり分かりません。

列車の件では、乗り遅れて無駄にした旅費が、
演劇と同じくセロの養父が好意で出してくれているお金だというのがもう一つ悪くて、
よけいに心証を悪くしていました。
ワカバがセロと二人っきりになりたくて、その口実として「わざと」やったことなら、
まだどうにか格好はついたのですが、そうでもないようですし…。

なんですかね。
僕の感覚では、ワカバというキャラクターが凄く嫌な女なんですよ。
お調子者で、計画性がなくて。
目標に対する一生懸命さが足りなくて。
悪意がないぶん余計に鬱陶しく思えていけません。
そんな女に惚れている主人公の感じも、見ていて疲れました。


15以上の視点

ワカバがどうしても好きになれなくて、イマイチ乗り切れなかったシロハネ編から一変。
クロハネ編は、作中で僕が特別気に入っているパートです。

本作の特徴である「複数視点で進行する」語り口が見事にハマっていました。
宮廷に他国の使者を招いて演劇をする平穏な日常と、
水面下で進行する国家転覆の陰謀が並行して書かれており、なかなかに臨場感のある構成だったと思います。

描かれる視点の数は、クロハネ編だけで8人ほど。
シロハネ編を含めると15以上のキャラクターの視点が描かれることになります。
段落ごとに視点が切り替わるほどだから、さすがに流れがぶつ切りになるのは否めませんが、
視点の変更が多いと聞いて想像するよりもずっと読み易い文章です。
語彙の変化を上手く使ってキャラの書き分けができていたし、
ものを考えるときのロジックまで、きちんと個性的に描かれていたのには感心しました。

なかでもクロハネ編でのココの一人称は絶妙です。
人間で言えば保育園や幼稚園くらいの幼児の視点で書いたような文章で、
周りの大人が話した言葉を覚えてさっそく自分でも使ってみたり、
映画で覚えた仕草をマネっこしたり…、目に見えて学習しているのが分かります。
意識的か無意識か、ココが大人の姦計を子供らしい無邪気なやり取りで、
のらりくらりとかわしてみせる場面は実に痛快でした。
「悲しいことだと理解できていないことが、悲しい」ような、
泣かせる描写もきちんと押さえており、シロハネ編とは別人のような書きっぷりでした。

全編がこの調子で書かれていれば、文句なしの絶賛だったと思います。


総評 A→B→C

ココの存在とちょいメルヘンな独特の世界観に「おっ」と興味をひかれたものの、
キャラクターとの相性が悪く1周目のクロハネ編以降が退屈に。 2周目3周目も、間にスキップを挟みながらの進行がネックで、いまいち物語に集中できず…。

わりと自信を持ってお勧めできる堅実な良作ですが、
シロハネ編が合わなかった僕には、尻すぼみな作品にも思えました。

とはいえ半分は僕の責任のようなものです。
本気で現実のことのように親身になって読むから、
妙なところで勝手にイライラしたり、テキストの範囲外のことまで気にかけてしまうのです。
読んでいて、「何でこんなことを書くんだ」と思うようなときは、大概ダメですね。
良い悪いではなく、根本的に好みの合わない作品なのだと思います。


余談、百合について

女性同士で愛し合うことに対して、何の葛藤も描かれないといいますか、
自然のこととして描かれているのに違和感を感じました。
アンジェリナとベルの関係は、他の仲間に絶対バレているはずです。
居候先で、町外れの野外で、真昼間からエッチしていて、誰にも気付かれないのは不自然ですから。

ところが作中で、アンジェリナの性癖には誰も触れません。
実際に告白されて断っているマリオンですらも、具体的には何も言っていません。
この感じが、もうとにかく気色悪くて嫌でしたね。
書き手が完全に「同人誌」もしくは「抜きゲー」の感じで作ってるんですよ。
おそらく、アンジェリナとベルの関係は百合モノのお約束であって、
わざわざ物語の中で説明する必要はないということでしょう。
でも、そんな心構えがないままに読み始めた僕からすれば、
周囲が気をつかって知らぬふりをしているように思えて、仲間同士の人間関係までがギクシャクして見えてしまいました。

ベルが人間の女性じゃなくて、女性型の人形であるという点も余計に話をややこしくしています。
カタハネの世界観の中で、人形と恋愛することは一般的なことなのか、そうでないことなのか。
倫理的なことに言及しないままで終わっているので、意識するほどに居心地が悪くなりました。

…とはいえ。
結局これも、気に入らなければスルーしたら済むところを、自分で勝手に掘り下げて失敗しているだけのアホな話です。
最初の印象が良すぎて、期待値のハードルが上がりすぎましたね。
頭から名作だと決めてかかって、一字一句逃すまいと気負ったのがいけませんでした。

本当は、ホロリと泣けて癒されて…。
肩肘張らない優良ADVなのです。
今さら言っても説得力ゼロですが……。





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