君が望む永遠 DVD specification

オススメ度:★★★★☆ / キャラ:★★★★☆ / シナリオ:★★★★☆



主人公が遙の告白を「嫌いじゃないから」と、軽い気持ちでOKするところからして、
本作はもう既に、他作品とは一線を画していました。
よくよく考えてみれば、これが一番しっくり来るパターンなんですよ。
往々にして、告白された側は、告白した側が想っているほどは相手のことを好きではないものです。

※ネタバレ有りの感想ですので、未プレイの方は注意してください。


アイデアは◎ 構成は×

遙と付き合う経緯など、既存の恋愛ADVの常識を覆すリアルな物語展開が魅力の本作ですが、
遙が事故で入院して以降、そのリアルさは失われていきます。

遙が事故に遭い入院して、1年後に奇跡的に目覚める。
これをリアルでないと言うつもりは、さらさらありません。
こんなのは設定で、これに文句をつけるようなら小説はノンフィクションだけ読んでろという話ですから。
僕が言いたいのは設定についてではなくて、主人公の感情の変化についてです。
遙が意識不明になったあと、傷心の主人公が水月と付き合い始めるのは分かります、
ある日突然、遙が目覚めて気まずい三角関係になって、
さらには親友の慎二を含めた四角関係に発展する流れも分かります。

ただ、一点だけ解せないのが主人公の心変わり、というか心情ですね。
遙と水月と。性格も外見もまったく違う二人を同時に好きになってしまうこと自体は理解出来ますが、
いくらなんでも優柔不断過ぎました。
常識的に言って、いくら二人とも大切で好きだと言っても、
やはり心のどこかで、自然と優先順位はついているものだと思います。
でも、彼の場合は、本当の本当に等分で分け隔てないのです。

「遙に対する想いがなくなったわけじゃない。事故のせいで止まっていただけ」
なんて言われても…。そんな不可思議な感情に共感しろと言われても無理な話です。
僕の中では、主人公が水月と付き合ってしまったのは気の迷いでしかありませんから。

遙が意識を失って入院中の、主人公と水月の描写が、ほとんどカットされていたのが大きな失敗でした。
主人公が遙を忘れて、水月に入れ込んだのがその一年だったとすれば、
そこの描写をカットされたプレイヤーと主人公との間には、
二章が始まった時点で、大きな隔たりが出来てしまっていることになります。

順当に読んでいけば、読み手としては遙のほうに好意があって、
水月になびいた主人公がちょっと鬱陶しいなぁ、と。そういう状態になっていると思います。
そうでなくて「いや、俺は水月だ」と言う人が多かったのであれば、
それはもう本作の企画そのものが滑っていたとしか言わざるを得ません。

主人公がどのヒロインに好意を持っているかが読み手の自由にならないのは、
美少女ゲームには不向きなシナリオです。
それでも無理を通して書くのであれば、一章は読み手のほとんどが遙を好きになるような、
他のキャラクターを攻略するつもりが思わず遙に軌道修正をかけたくなるような、
それくらいの文章を、まず書かなければいけませんでした。
二章では、遙の事故で塞ぎ込んだ主人公を支える水月の姿をしっかりと描いて、
遙の存在を忘れてしまうように読み手の感情を巧みに操作していく必要がありました。
それだけの手順を踏んで、ようやく遙が目覚めるからこそ、
主人公の葛藤がプレイヤーの葛藤でもあるような、感情移入出来る環境が整うのではないでしょうか。

遙の意識が戻った、と知らせを聞いたときの主人公の驚き。焦り。迷い。
この一瞬が共有できてこそ、本作は読み手にとって名作になり得たのだと思います。

主人公には、もっと自分本位で損得を計算するような、ずるい葛藤を見せてもらいたかったです。



総評 C

本作が名作と持てはやされる一方で、それと同じくらいに酷評されるのは、
決して好みの問題ではないのだと、僕は思います。
全ては書き手が説明を怠ったが故。
読み手の想像力なんて、行と行の間を空想したり、「…」の意味を埋め合わせたりがせいぜいです。
何百字、何千字の空白を勝手に補完してくれと言われても困ってしまいます。

一章と二章の間にあった主人公と水月の同棲生活を、
一章で遙に費やしたのと同じくらいの時間をかけて語るべきでした。
頭では主人公が水月と過ごした1年を理解していても、
実際に読んでいないものは、やはり肝心なところで心に響きません。

ひょっとすると、ライターさんは物語が冗長になるのを恐れたのかもしれません。
でも、それなら僕は、その他のキャラクターの個別シナリオを削って欲しかったです。
看護婦との過激な愛憎劇とか、ファミレスの金持ちお嬢様との恋愛とか…。
キャラクターとしては嫌いじゃありませんが、本作のテーマからすれば不要なシナリオばかりだったと思います。

正直、サブキャラのシナリオで必要性を感じたのは、茜のシナリオだけでした。
遙の妹であり、水月の部活の後輩でもある茜と恋仲になる物語。
作中で一番ドロドロした濃いシナリオでした。





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