マブラヴ オルタネイティヴ

オススメ度:★★★★★ / キャラ:★★★★★ / シナリオ:★★★★★



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とりあえず…、OPに「Jam Project」は反則。
エロゲーOP=女性ボーカルと思い込んでいただけに、熱すぎる影山ボイスには笑いました。
初っ端からの不意打ちに毒気を抜かれ、見事に機先を制された感じです。

今回は、盛大にネタバレしていますので、これからプレイ予定の方は注意してください。
というか、ネタバレ無しに語るのなんて無理だ…。


御見逸れいたしました…

マブラヴ アンリミテッド編の感想』で、BETAの設定が出来ていなかったんじゃないか、
などと騒ぎ立てていましたがとんでもない。
エクストラ、アンリミテッドの伏線を華麗に回収して物語の推進力とする本作の完成度は並々ならぬものがありました。

前作、アンリミテッド編での総合評価実技演習のときに、夕呼先生が砂浜でバカンスを楽しんでいたのが、
実は研究に行き詰っての気分転換だったと分かったときには、
「へぇ、そんなことにまで理由があったのか」と感心しました。
それどころか、エクストラ編での何気ない日常のなかにも隠された伏線があったのだと知ったときには、
本作の完成度の高さに圧倒され、完全に飲まれてしまいました。
まったく…、ダサいダサいと連呼していた半裸状態のバトルスーツにさえも意味があったなんて……、
そこまで完璧に筋を通されるとグゥの音も出ません。
夕呼先生のバカンスが良い例ですが「それはそういう物」と、
さらっと流してもお咎めはなさそうなことにもきちんと理由付けがされており、物語の流れに説得力を感じました。

気がつきにくい隠れた伏線と、簡単に気がつく分かり易い伏線とがあり、
物語の展開に「なるほど」と「やっぱり」の緩急がついているのが面白いです。
予想が外れたら意外性、予想通りなら流れに乗って勢いづく、という具合に。
どう転んでも面白い、とまで言うと信者っぽいですが、すんなり感情移入できたので、
そういう意味では限りなく信者に近い感覚で読んでいたと言えそうです。
SF世界に放り出されて右も左も分からない僕(プレイヤー)と、
夕呼先生しか頼れる人のいない主人公の立場とが重なって、主人公視点に馴染み易かったからでしょうね。
世界について分からないことが多すぎて、
一歩引いたところから全体を眺めるような読み方はやりにくい作品だったと思います。


問題のイベント

こちらが身構えるよりも半歩先を行くことで、本来なら"予想通り"の展開を、
"予想外"にしてみせた神宮寺教官の例のシーンには、楽しませてもらいました。
初陣で錯乱して、仲間を危険に晒したことを落ち込む主人公に、やたらと良いセリフを連発する教官。
少しでも考える余裕があったなら、容易に「あぁ、もうちょっとしたら教官死ぬな…」と気がつくところが、
教官の言葉に励まされた主人公が立ち直って間もなく、俯いていた顔を上げた瞬間に、
教官はBETAに頭からガブリと食い殺されます。
教官が死ぬまでに間隔が空いていたら、教官を殺すためだけに一つイベントを作ったように思えて、
嫌悪感だけが残っていたことでしょう。
プレイヤーに心の準備をする時間を与えず、
一瞬で惨たらしく殺して見せた演出は見事としか言いようがありません。
最初は何が何だかわからなくて、主人公と一緒になって数秒呆けてしまったほどです。
人が死ぬ展開であっけにとられたのは初めてでした。
戦争モノは、戦闘以外のときにはことのほか気が緩むもので、
戦闘が終了した直後は、なおさらだったということでしょうか。
いやはや、完全にしてやられましたね。
なんとも痛快で、悲しい場面にも関わらず、どちらかと言うと笑ってしまったほどです。
感想を書くにあたって読み直してみましたが、やはり笑うしかない感じですね。
言葉もないです。
冷静になってから見ると、グロをオーバー気味に描いているのが分かりましたが、
それでも乾いた笑いは治まりませんでした。

賛否ある問題シーンでありますが、僕はあって良かったと思っています。
グロテスクな表現もプレイヤーに与える衝撃を大きくするには有効でした。
そしてこれが、前線から離れた場所にある横浜基地の人間に危機感を持たせるために、
夕呼先生が立案した作戦だと知ったときの衝撃は、さらに大きいものでした。

次々明らかになる新事実を受け止めるのが精一杯だった僕に、
捕獲したBETAを作戦開始までどうやって押さえつけていたのだろうか、
などという素朴な疑問を感じる余裕は、どこにもありはしませんでした。


色々な死

教官が準備なしに一瞬で殺される一方で、
01部隊のメンバーの死際のように前もって予想されたものもありました。
むしろ、こちらのパターンがほとんどだったのですが、これも一つの緩急ですね。
変な言い方ですが、死に方のバリエーションが豊富でそのつど新鮮でした。
戦術機が撃墜されて死んだり、BETAに食い殺されたり、溶解液で消滅させられたり。
シチュエーションも、自ら皆の犠牲になることを選択したり、仲間を守ろうとして死んだり、
自分の役割を果たすために命をかなぐり捨てたりと様々。
予想済みの死をいかに華々しく見せるかに腐心している場面もあれば、
何もなさない内にあっけなく殺される無情な場面もあって、死を色々な角度から描くことに成功していました。

常に問題が山積しており、物語の先を知りたい欲求に追い立てられるようにして夢中で読み続けました。
無駄に頑張りすぎな人形劇アニメが少し冗長に思えましたが、それ以外はダレることはなかったです。
戦闘中の「ダダダダダダダッ!!」という単調なマシンガンの銃声と
間接の駆動音がなんとも良いリズムで眠気を誘います。
うじゃうじゃ湧いてくるBETAが羊代わりでした。
BETAが一匹。BETAが二匹。BETAが三匹……zzz。
戦術機同士の戦いは迫力満点だったんだけどなぁ…。
BETAのイラストが、やたらとクオリティが低かったのが原因かもしれません。
特にグラップラー級と呼ばれているBETAが変でした。

あと、主人公たち以外の衛士が不自然なくらい弱かったことに違和感を感じました。
撃っているんだけれど、ほとんど当たっていない風に
演出されている場面が多くて(本当は当たってるんだろうけれど)、いまいち状況がつかみ辛かったです。
倒した側からどんどん沸いてくるような演出を多様してくれたほうが、イメージはつかみ易かったと思います。
BETAの物量で押してくる戦術も強調されたでしょうし。


総評 S

夕呼先生の天才ぶりには感心しました。
先読みして主人公を利用して、利用された主人公がそれに気がついて
反発することまで織り込み済みで計画を立てるなど、プレイ中夕呼先生には、主人公と同様、振り回されっぱなしでした。
一見、何でもお見通しで達観しているように見えて、実際はそうでもないところが好きですね。
研究に行き詰ってイライラしたり、計画が失敗したときに飲んだくれたり。
教官が殺されたときのように、目的達成のため冷酷な作戦を実行する一方で、
コクピットで座して死を待つ伊隅大尉のために、
大尉が気にかけていた妹の無事を知らせるなど優しい面も持ち合わせています。
ふいに見せる人間味が巧い機微になっていました。
夕呼先生は、作中でもっとも力を入れて描写されていたキャラクターだと思います。
ヒロインたちよりも目立っていたのではないでしょうか。

天才科学者の夕呼先生と天才衛士の主人公。
BETA相手に、たとえ天才でも1人では何もできない人間の無力さを描くことで、
人類の手詰さがよく伝わってきました。
公式発表では『マブラヴ オルタネイティヴ』は純夏シナリオだとのことですが、
僕には夕呼シナリオに思えて仕方がなかったです。 文句もあるにはあるけれど、読んでいる最中は先の気になる展開で終始楽しめました。
前作から派手に引っ張った挙句の大コケにならなくて良かったです。
これだけ尺の長い作品だと、もはや、
落としどころで賛否が分かれるのはどうしようもないことだと思いますが、
何はともあれ、自分が「否」の側にまわらずに済んでホッとしています。


おまけ感想 ふたりの想いがつくりだす世界

主人公と純夏を欠いた01部隊はもとより、長きにわたる防衛戦と桜花作戦により
疲弊した人類がBETAに勝利する可能性は極めて低いと予想され、大変に後味の悪い結末となりました。
作戦後、元の世界に戻った主人公には前の世界の記憶が残っておらず、
20時間、30時間かけて体験してきた出来事が全てなかったことのように思えて、虚しさを感じました。
自分のよく知る人が記憶喪失になってしまったのと同じような感覚だと思います。
俺は覚えてるのに――、ってところが。

さて、本題に入りますが、僕が考えてみたのは本作の"話のオチ"についてです。
BETAとの決戦が終わって、純夏のいる世界へ帰った後の展開です。
僕は、実を言うとあまり納得いっておりません。
最後に霞が転校してきて、「おぉー、やっぱり来たか、よくやった。ありがとう」と
喜んだのも確かなのですが、僕としてはエクストラ編の世界に戻って欲しかったです。

オルタに出てくる白金武が、どの世界の白金武とも違うことは分かります。
分かった上で言いたいのが、夕呼先生じゃありませんが、
少なくとも「観測者(プレイヤー)から見たときに原点となるのは、
前作、マブラヴでプレイしたエクストラ編の世界」だということです。
霞が転校して来て嬉しいと感じるのが人情なら、主人公を"元居た世界"に帰してやって欲しいと思うのもまた人情。
それに、最後に出てきた平和な世界だって、ゲームが始まった時点で既にあり得た世界の一つに過ぎませんし。
僕にしてみれば、幸せな可能性の世界を見せられただけで、
オルタネイティヴの世界のことは全部まる投げしたように思えてなりませんでした。

まる投げするのなら、せめてエクストラ編に戻してくれればなぁ…。
あれだけの出来事があったけれど、主人公に自覚はなく、周囲の誰も彼も変わらず、
とどのつまりは何もなかったのと同じことになってしまう。
オルタネイティヴの世界を除いた全ては振り出しの10月22日に巻き戻って、
でも、読み手の思いだけは確かに残っていて、なんて具合に、モヤモヤ感が残る終わり方をしてもらいたかったです。
読後に、残してきた世界のことが引っかかって少し鬱になれるくらいが、本作らしいと思うのです。

結局、マブラヴの歌詞にあるように主人公と純夏の
「ふたりの想いがつくりだす世界」だった、が正解なんですかね。
ほとんど夕呼先生が主だったけれど、ずっと理詰めで話を進めてきたから、
最後のご都合主義的な展開はいかにも良い感じで奇跡が起こったように思えて、安っぽさを感じずにはいられませんでした。

それにしても…。
どうせ奇跡を起こすなら京塚のおばちゃんとか伊隅大尉とかも出してくれれば良かったのに……。
霞を含めた皆で食堂に行ったら、
厨房から出てきた京塚のおばちゃんに背中をバシバシ叩かれて――、なんて展開になったら それこそ号泣モノでしたよ。
もちろんCG付きで。
斜め上からのアングルで、真ん中に霞が座ってて、純夏が霞の両肩に手を置いてて、
周りを取り囲む仲間に混じって、おばちゃんに背中を叩かれ咳き込む主人公。
無論、みんな笑顔で。
ついでにまりもちゃんと夕呼先生も乱入してきたりして。

ご都合主義は、やるなら徹底的にやってもらいたかったです。





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