マブラヴ

オススメ度:★★★★★ / キャラ:★★★★☆ / シナリオ:★★★★☆



ちょっぴりドジな幼馴染の"鑑純夏"と平凡な学園生活をおくっていた主人公のもとに
突然、財閥の跡取りである"御剣冥夜"が押し掛け、そのまま同居することになってしまいます。
転校してきた変わり者の冥夜に、主人公と純夏、クラスメイトの"珠瀬壬姫"、
"榊千鶴"、"彩峰慧"、"鎧衣尊人"らは、時に振り回されながらも、冥夜の真っ直ぐな人柄に感化され、成長します。
そして、ただの幼馴染とクラスメイトに過ぎなかったその関係が、少しずつ変化し始めるのでした。

アンリミテッド編の感想へ


描写いらずの演出力

王道と言うだけあって、物語の展開は平凡でしたが、
コメディタッチで描かれる学園生活は、なかなかに楽しめました。
演出を計算して文章を書いているため、テンポがとんでもなく良かったです。
会話だけで話が進行するように出来ていて、描写する代わりに、全て画面効果で表現されていました。
キャラがクルクル表情やポーズを変化させて、怒っているときはアップで主人公に迫ったり、
「え゛〜っ」というようなときには少し引いてみせたり。
音声や効果音も立ち位置によって、右側から聞こえたり左側から聞こえたり、
大きくなったり小さくなったり、細かいところまで作り込んでいました。
他にも、声優さんの演技や背景、BGMなど、当たり前にある演出も含めると、
視覚と聴覚から得る情報の占める割合が大きく、既存のADVよりもリアルで臨場感のある作品に仕上がっていました。

今までのADVが小説寄りだったのに対して、本作は漫画寄りですね。
珍しく、文章以外の要素にも結構、目が行きました。
普段は、僕の感覚では、文章が作品評価の8割程を占めているのですが、
今回は6割弱くらいの感じでした。
僕はどちらかと言うと、しっかり描写している文章の方が好みなのですが、
ここまで動きで見せられると、描写が全然なくてもまったく違和感を感じることはなかったです。

展開の平凡さが気にならず、ただ目の前にある楽しい日常を享受できたのは、
練り込まれた演出のおかげだったと思います。


演出以外の特長は…?

気合の入った演出を除けば、あとは3人以上のイベントが多いことが本作の特徴です。
つまり、共通パートが多めで、友情が主体で話が進んで行き、
最後の方で、鈍感な主人公が「あっ」とヒロインの気持ちに気がつくというお決まりの流れですね。
最近の作品にしては珍しく、ヒロインと結ばれてからエンディングまでが短かいシナリオでした。
嬉し恥ずかしのバカップルぶりが見られないので、少々物足りなさも感じますが、
その分、退き際は綺麗に感じました。
結ばれてからエンディングまでが長いパターンだと、
もれなく、もう一度何らかの問題に直面するイベントが付いてきますので、最後にゴタゴタする感じがありますからね。
"2人の時間はまだ始まったばかり"みたいな、さぁ、これからヒロインとの幸せな日々が続いていくぞ、
というところで終わってくれるのが僕の一番好きなパターンで、
今回は見事にそこにハマってくれていたので、落とし所については非常に満足しています。

あとは、主人公が自分から告白しないというのも珍しいといえば珍しいかもしれません。
主人公は、ヒロインの好意には何となく気がついていても、
そこまで自惚れられずに最後の最後まで事実から目をそらし続けます。
「そこまで自惚れられないよ」では、単なる謙遜ですが、
「自惚れだったとしたら格好悪い」と、情けない部分をさらけ出すように書かれており、そこに本物らしさを見た気がします。

学園モノでよくあるのですが、自信満々に、「俺は○○が好きだ」などと言われてしまうと、
僕の場合は、主人公との距離を感じてしまい激しく盛り下がります。
覚悟を決めて告白するのは良いのです。
でも、断られるかもしれない、という意識がゼロなのは異常だと思うのですが、
皆さん、そこのところはどんな感じでしょうか?

少し無駄話をしてしまいましたが、プレイヤーに対して全てをさらけ出しているという点においては、
共感を得られ易い主人公だったと思います。


化学調味料の味

印象に残っているのは、純夏が夕飯を作って、主人公と冥夜と尊人の4人で食べるシーン。
みそ汁をすすりながら、

「ウチより色が白いかな〜」
「おまえん家、味噌甘いな」

などと、皆が口々に感想を言っていると、食事の途中にも関わらず、

「考えたいことができた」

と、席を立った冥夜。
心配した主人公があとで理由を聞くと、

「化学調味料の味がして……あまりうまいとは思えなかった」
「……とても残念だった……」

と、ポツリ。
味覚が鋭敏だと化学調味料の味が分かるかどうかはさて置き、
冥夜の設定を活かした好イベントだったと思っています。
冥夜の家はお金持ちなので、添加物が入っているような食品は、
おそらく今まで食べたことがなかったのでしょう。

皆と価値観を共有できない寂しさ。
かと言って、一概に皆の価値観を受け入れることも叶わぬ自らの立場。
財閥の跡取りとして望まれている"御剣冥夜"と、自らこうありたいと望み、
変わりつつある"一個の人間としての冥夜"との板ばさみに苦悩する姿が浮き彫りにされており、思わず考え込んでしまいました。

同時に、主人公はなぜ、冥夜の気持ちが分からないのだろうと苛立ったイベントでもありました。
冥夜と話をして別れた直後の主人公の心境というのが、

「何が残念だったんだ? あいつそんなに純夏のみそ汁に期待してたのか?」
「そりゃ無理だろ?」
「市販の味噌使っただけだからな。冥夜が用意してくれる方がいいモンに決まってるだろ?」

と、見当違いにも程がある有様でして……。
こういう不自然な流れを見せられると、作者が自分の都合の良いように、
主人公の思考を捻じ曲げているのではないかと勘繰ってしまいます。
これが、純夏の作ったみそ汁を批判されたことで、無意識のうちに、
冥夜に腹を立てていたのだとしたら巧いものだと思いますが、後の文章から察するに全然違うようですし…。
ここだけがちょっと残念でした。


エクストラ編のみの評価 B

エクストラ編のみのゲームだったとしても問題なく良作。
難点を言えば、最初に賑やかな画面効果に慣れるまで少し戸惑うことと、
テンポ重視のシナリオなので、プレイ時間のわりに心に残るものが少ないことでしょうか。

エクストラ編は、全員攻略で、だいたい25時間くらいかかりました。
ちなみに、オフィシャルHPに、コンプまで(アンリミテッド編も含んで)の目安として
100時間〜160時間とありますが、おそらく既読スキップ無しでの計算です。
僕は両方合わせて40時間ほどで終わりました。





inserted by FC2 system