マブラヴ

オススメ度:★★★★☆ / キャラ:★★★★☆ / シナリオ:★★★★☆



ある朝、いつもより早起きした主人公が外へ出ると、街が廃墟と化していました。
現実離れした光景に、呆然とする主人公の目に飛び込んできたのは、瓦礫にうずくまるロボットの残骸。
夢と勘違いした主人公は、ロボットの存在にひとしきり興奮した後、崩れ落ちた街を散策しながら学校へ向かいます。

アンリミテッド編は、エクストラ編の王道ラブコメから世界観が一転。
戦術機と呼ばれる二足歩行のロボットに搭乗して、宇宙生物"BETA"と戦う王道SFアクション物です。

発売から3年。
頑なに情報をシャットアウトし続けてきた甲斐があって、アンリミテッド編の急展開には大興奮しました。

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BETAなんて飾りです!

本作の唯一にして最大の失敗は、敵であるBETAを一度も登場させなかったこと。
肉体の鍛錬に、適正試験に、操縦訓練。
全ては、BETAと戦うための下準備だったはずです。
にも関わらず、シャトルの衝突を阻止したり、火山噴火の災害救助をしてみたり、
せっかく戦術機が扱えるようになったかと思えば中途半端なイベントばかりで、
挙句の果てにはエッチの相手で分岐するコピペENDの5本立てでゲームが終了してしまいます。

これらのイベントが完全に不要だったとは言いませんが、肝心のBETAとの戦闘がまったくない状況だと、
「もっと書くべきイベントがあるだろう」と考えてしまうのは仕方のないことだと思います。

終盤、対BETAの秘策"オルタネイティヴ計画"の第4段階が失敗に終わると、作戦は第5段階に移行します。
種の保存のために、選ばれた人間のみを地球から脱出させる、悲しい作戦です。
選ばれなかった主人公たちに与えられた任務は、避難民を乗せたシャトルの護衛でした。
地球に残って戦っても、死を待つのみと考えた主人公は、八方手を尽くした結果、
避難船の搭乗権を1人分だけ手に入れることに成功します。
シャトルの最終便打ち上げの前日、主人公はヒロインに、
シャトルに乗って地球を離れるように説得するのですが、
当然、素直に従うはずもなく、お互いに譲り合う恰好となります。
事ここに至って、主人公たちとの間でBETAに対する認識が
大きく食い違ってしまっていた僕からすれば、非常に苦しいイベントでした。

主人公たちは、地球に残って戦えば100%死ぬと確信しています。
でも、僕はBETAの恐ろしさが、おそらく10分の1も分かっていなかったはずです。
航空部隊はまったくの無力であるとか、○○km先の標的すら瞬時に撃ち落すだとか、
最初の方で何度か説明はあるのですが、言葉だけではなかなか…。
頭では分かった気になっても、いざというときに心が反応してくれませんでした。
実感として、地球に残ってBETAと戦うことが死ぬことだと理解できていなかったのだと思います。
主人公とヒロインは、相当な極限状態で互いに相手を思いやっているはずですが、
BETAの恐ろしさが理解できていない僕の心にはいまいち響いてきませんでした。

書き手にその気があれば、BETAを登場させるチャンスはいくらでもありました。
にも関わらず一回も登場させなかったのは、オルタネイティヴ発売まで3年掛かった経緯を考えるに、
マブラヴが発売した時点では、まだ、BETAについては設定が固まっていなかったのでしょう。
僕は、ひょっとすると、ほとんど白紙だった可能性もあると思っています。

「今、ヘタに登場させたら、後でBETAの設定が変更できなくなる」

という思いが、確実にあったはずです。
煽っておいて一回も出さなければ、ユーザーから不満が出ることは分かっていただろうし、
続編があるとはいえ、顔見せくらいなら、さして影響も出ないと思いますから。
やはり、設定が出来ていなかったのでしょう…。

世間ではオルタネイティヴの発売が遅れたかのように批判されていますが、
実際は、マブラヴの発売が早すぎたのかもしれません。
僕はそんな気がしています。
出さなきゃ会社が無くなっていたのかもしれないけれど…(^^;


上官の命令が絶対なワケ

結果的にBETAは登場しませんでしたが、プレイ途中は、そんなことは分かるはずもありません。
"たま"の射撃、"榊"と"彩峰"の喧嘩など、エクストラ編とオーバーラップするイベントの数々は、
実際そうである以上に素晴らしく感じられたものです。
そして、それとは別に、アンリミテッド編ならではのイベントにも印象的なものがありました。

部隊のメンバー全員で食事をしていたときのことです。
隊長の命令に部下は忠実であるべきだと主張する分隊長の榊と、
臨機応変に対応した方が良いとする主人公の意見が対立してしまいます。
榊との押問答に痺れを切らした主人公は思わず、

「じゃあおまえは、死ねって命令されたら……死ぬんだな?」

と極論で反撃するも、対する榊は、

「そうよ」

と即答。
取り付く島もありません。

平和な世界から来た主人公には、榊の軍国主義的な考え方が理解できないのですが、それは僕も同様でした。
主人公の無茶な問いかけは、僕の問いでもあったのです。
アンリミテッドの世界観の中では、プレイヤーである僕も、
戦争を知らないという点において、主人公と同じ世界の住人でした。
この奇妙な親近感が、平凡な王道SFモノである
アンリミテッド編を二倍も三倍も面白く感じさせてくれていたように思います。

そして、もう一つ面白いのが、しっかりした答えなど返ってくるはずがないとばかり思っていた
主人公の無茶な質問に、こちらが納得してしまうような答えが返ってきたことです。
部隊のメンバー全員を巻き込んだ議論の中で、

「我々は確かに一個の人間だが、その意志で繋がっている。
だから自分が倒れても誰かがそれを継ぐ……そう信じられるのだ」
「だから私達は命令に従えるのだ。私に下される死ねという命令は、どこかにいる誰かを救うことに他なるまい」

と冥夜が意見を主張すると、その意見に美琴が続けて、

「……どこかの誰かに出された命令のおかげで……今、自分が生きているかもしれないんだ」
「命令する側もされる側も、みんなそう思ってるよ。だから今すぐここで自殺しろなんていう命令を出す隊長は絶対にいない」

と結論付けます。
冥夜の言った"意志"とは、BETAを倒し地球を守ることです。
どちらかと言うと後半の美琴のセリフが僕にとっての答えでした。
少し考えてみると当たり前のことでしたが、
部下を無駄死にさせるような人物が隊長であるわけがないんですね。
そりゃそうです。
命を預けて行動を共にするのですから当然です。
権力者に対する無意識の反発を窘められたような気がして、無性に気恥ずかしかったのを覚えています。


アンリミテッド編のみの評価 B→C

終盤までがB評価。
BETAが出てこなかったことで、終わった後の感触はD評価、そんな感じです。
あと、ほとんど共通パートで、エロだけ分岐させるような構成だったことも評価ダウンに影響しています。
オルタネイティヴがあるとはいえ、マブラヴ単体で一本の作品として売り出すのであれば、
その辺の体裁にはもう少し気を遣ってもらえると嬉しかったです。


総評 A

エクストラからアンリミテッドへの急展開は衝撃的でした。
たとえアンリミテッドがEやFが付くくらいに最悪だったとしても、
総合評価は今と変わらずAを付けていたはずです。
単品でも十分に良質な学園コメディのエクストラがあって、
そこからもう一段階"何かある"ことに意義があったと思っています。

エクストラとアンリミテッド。
1本のソフトの中で両方を見せるからこそ、プレイヤーの中で、
まったく違った2つの世界を結びつけて考えられるのではないでしょうか。
オルタネイティヴをプレイしていない内からこういう話をするのはどうかと思うのですが、
もし、本作が王道学園モノである"エクストラ編"と王道SFアクションである
"アンリミテッド編・続編のオルタネイティヴ"とを綺麗に2分割して発売していたとしたら、
どちらも凡作で終わっていたように思います。
エクストラ編だけでスパッと区切られると、僕の中では『マブラヴ』が、
そこで一回終わって途切れてしまうんですね。
非常に感覚的で、上手く言葉に出来ずもどかしいのですが、
オルタネイティヴになってから並行世界に来て戸惑う主人公を描かれても、
プレイヤーである僕の方は、『マブラブ』から『オルタネイティヴ』にパッケージが変わったことで、
既に並行世界を許容してしまっていると思うのです。
主人公は平和な世界から突如、戦争中の世界に飛んで来ますが、僕がインストールをしてゲームを始めると、
最初から戦争中の世界しか出てこないことになりますから。
そうなると、ゲームが始まった時点で、主人公との間に埋められない溝が出来てしまいます。

なにやら逆説的な感想になってしまいましたが、
ようはアンリミテッドあっての『マブラヴ』だということです。

それにしても……。
マブラヴ全体から見れば序章にすぎないエクストラ編が、
そこいらの学園モノADVと比べて見劣りしない完成度であることには恐れ入りました。
そのせいで今回、計らずも、『age』さんと他メーカーさんとの力量の差が、
+αのアンリミテッド編という形で浮き彫りになってしまいましたが、
一番笑えて、一番笑っちゃいけないところなんだろうなぁと、そんなことを思いました。





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