もしも明日が晴れならば

オススメ度:★★★☆☆ / キャラ:★★★☆☆ / シナリオ:★★★★☆



死んだ彼女が幽霊になって帰ってくる、というありふれた設定の作品。
でも、そのありふれた中では、最高峰の作品ではないかと思いました。
主人公とソリが合わなかったこと以外は…。


一人称なのに…

主人公の一人称なのに、主人公の視点に馴染めないのがネックでした。
主人公の性格が、ヘタレだということよりも、
最初から、幽霊とはいえ恋人(明穂)がいるという設定がしんどかったです。

来るべき"明穂"との別れを思い、悩みながらも、"明穂"が大好きだから、
それ以上に嬉しくて…、ということであれば、まだ共感できただろうとは思います。
でも、主人公の場合は、まるで"明穂"が生き返ってきたかのように、
"明穂"が幽霊であることを差っぴいて行動するので、どうにもついていけませんでした。
"明穂"が、周囲の人間には見えないことが分かっているにも関わらず、
喫茶店で自分のと"明穂"のと2人ぶんを注文したり、普通に話しかけたり…。

たとえば、僕がアリだなと思うのは、人のあまりいないような場所(お店じゃなくて屋外)で
お茶するとか、映画館で後ろの方の席に座って、一緒に映画を観るだとか、
"明穂"が幽霊であることに配慮のあるシチュエーションです。
相手が幽霊でも、周囲の目をまるで気にせず普段通りに振舞うところが、
僕には病的に思えて、読んでいていてイマイチ乗り切れませんでした。
もっと非現実的な世界観の作品で、同じシチュエーションを見せられていたならば、
美談として受け止められたと思います。
本来ならば良いことなのですが、
本作の、どっしりと地に足のついたストーリー展開やテキストが仇になっていました。

幼い頃から、主人公が明穂と過ごしてきた長い年月を、
プレイヤーはまったく見ていないところに、本作の致命的なマズさがあります。
本作の設定でいくのであれば、どこかのメーカーがやっていたように、
まず明穂と知り合って付き合うまでの話を別個にしっかりと書いて、
"明穂"が主人公にとって、かけがえなく大切な人であるという事実を刷り込ませておくべきでした。

これは後で気がついたことですが、本作は『Dear my friend』と同じライター(NYAON)さんが担当のようです。
僕は『Dear my friend』のときも本作と似たような理由で不満を感じていたので、
これには「なるほど」と妙に納得してしまいました。
『Dear my friend』もそうですが、NYAONさんの書きたいストーリーは、
攻略可能なヒロインの数だけ物語が分岐する、ADVの形態で表現するには不向きなのだと思います。
どちらかと言えば、小説で読みたい内容です。

恋愛ADVで最初から彼女持ちの設定は、どう考えてもダルいですよ。
主人公が、今の彼女に不満を感じており浮気するとか、メモオフ2のように冒頭で別れるとかなら話は別ですが、
本作のように彼女にベッタリな状況では、他のキャラクターが好きでゲームをしているプレイヤーは退屈してしまいます。

ひょっとすると、選択肢が、最後の分岐以外に一個もなければ、もっと楽に読めたのかもしれません。
物語に自分(プレイヤー)の意志が介在する要素はないのだ、と思って読めば、
思い通りに行動しない主人公を見ても腹は立たなかったような気がします。


どんどん面白くなる

さて、これまで延々と文句を言い続けましたが、全て3章までのことです。
4章に入った辺りから、急激に面白くなってきました。

理由は、すごく単純なことで、ゲームを進めていくと、自然と"明穂"に対する理解が深まったからです。
お節介なところだとか、意外と嫉妬深いところだとか。
妹のつばさのことを、とても大切に思っていることだとか。
ゲーム開始時点で主人公と僕との間にあった、"明穂"に対する情報の格差が小さくなるにつれて、
徐々に、主人公への違和感が薄れていったのだと思います。
そうすると、主人公が明穂を第一に行動する気持ちも「まぁ、分かる」ようになってきました。

ただ、いくら調子の良いことを言ったところで、6章までのシナリオだから、
3章までつまらなければ、半分丸ごと面白くないのじゃないか、と思われるかもしれません。
でも、全然そんなことはなくて、周回プレイも考慮すれば、
初回の3章ぶんは、せいぜい全体の5分の1程度です。
それに、最後がつまらないのに比べれば、終わった後の印象は随分と良いです。

4章は子供の幽霊が出てくる話で、5章が学園祭で、6章が個別シナリオで。
個別ルートへは、5章の途中から分岐しており、そこから2時間〜3時間くらいで終了という長さも丁度良いです。

でも、やっぱり一番のポイントは、どのキャラクターのシナリオもきちんと作られていたことですね。
というわけで、以下、ちょっとだけ個別感想。
クリアした順番に書いています。

ここだけネタバレてますので、これからプレイ予定の方は注意してください。


委員長(というかBADエンド?)
いやぁ、良いですね、委員長。
それだけに攻略できないのが残念でした。
"明穂"と話しているのがバレて、事情を説明することになって…、
みたいな感じで、どうにか書けなかったんですかね。

つばさ
"明穂"の演技をするくだりなどは、つばさが演劇部である設定を活かしていると思ったし、
構成が非常に綺麗なシナリオだという印象です。
一瞬でも良いから、「明穂が乗り移っているのでは?」と
思わせる仕掛けがあればもっと良くなったと思います。

"つばさ"の気持ちに対して主人公は、とにかくなんでも良いから、
「いやいや、薄々だけど俺も分かってるよ」という空気を出して欲しかったです。
主人公の鈍さが際立っていました。

珠美
シナリオ的に、明らかにオマケ臭いキャラクターなので、期待していなかったのですが、以外に頑張りましたね。
"つばさ"と喧嘩するシーンは、本音と本音のぶつかり合いという感じで良かったです。

それにしても……。
手を繋いだとき、恥ずかしがる珠美ちゃんに、

「嫌なら離すけど?」

と、自信満々過ぎる主人公には、流石に引きました。
同時に僕の中で、この救いようのない馬鹿男を上手く飼いならしていた"明穂"の株がちょっと上がりました。

千早
唯一、あまり面白くなかったシナリオ。
思い込みでゾンビになってしまうコメディ風の映画は見たことがあるけれど、神様になるってのはちょっと…。
コメディ風だから笑えるわけであって、真面目な話でそんな答えを出されたら締りが良くないですね。

明穂
最後のケータイで電話する場面。
呼び出し音が鳴ったときは確かに感動したし、良いんだけど、本当は、あれはダメです。
イナバウアーと一緒です。
感動はさせられるけど、技術点は0点。
それがやりたくて、幽霊になってもケータイは消えないように設定したのが、まる分かりですから。
"つばさ"が最後に"明穂"を演じたのは、その前に学園祭の演劇で一回、
設定をきちんと消化しているから"上手い"わけです。
設定を作って、そこから直通でオチにするだけなら何でもアリになってしまうので、
やり方としては物凄く下手くそなのですが、ADVの妙と言いますか、
音楽とCGで強化すると、立派に泣けるシーンになりますね。

僕の好みを言えば、電話する場面では、お互いに姿が見えないままの方が、泣ける演出になったと思います。
姿が見えなくて声だけの方が、電話の必然性があっていいんじゃないかな、と。
そこに居るのは分かっているんだけど、見えない、触れられない…。
切ない……。
ってな具合に。


総評 D→C→B→B

かなり良く出来た凡作です。
尻上がりに面白くなるけれど、後一押しあれば、なお良かったという感じです。
でも、それだと、たぶん本作はまったく別物の作品になってしまうのでしょうね。
「普通」のままで、面白くできる限界ギリギリの作品だったと思います。

みんな誰かに、少しずつ遠慮していて、少しずつ嫉妬していて。
人間関係とは、どうにも難しくて、困ったものだな、と。
不器用なキャラクター達の交流を通じて、リアルな感情が伝わってきました。





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