夏色公園

オススメ度:★★☆☆☆ / キャラ:★★★☆☆ / シナリオ:★★★☆☆



勤めていた会社が倒産して、住んでいたアパートを追い出された主人公、夏井一真。
行き場を失い、公園のベンチに腰掛けぼんやりしていた一真は、
「公園のヌシ」と呼ばれるホームレスの少女、エンプティと出会います。

エンプティの誘いから、公園で生活を始めることになった一真は、公園に訪れる、
「オフィーリア」「ネコ」「アリス」「レィディ」「みっちゃん」の5人と知り合いになります。
エンプティも含めて、もちろん、全て「あだ名」です。
エンプティは、一真にも「あだ名」を付けようとしますが、
彼は拒否して『夏井一真』と本名で呼ぶように言いました。
「あだ名」を受け入れてしまうと、公園生活に甘んじている現状までをも許容してしまうような気がしたのでしょう。
言ってみれば、全てを失った一真の最後の意地であり、人間としてのプライドでした。
とは言え……。

「その……非常に言いにくいんだが」
「その……ええと」
「パンの耳を、いただければ、嬉しいなあ、とか」

一真の公園生活はすこぶる順調のようでした。


勝ち組なホームレス

主人公がホームレスであるという設定に惹かれて、
多少のドキュメンタリー的な要素を期待しつつプレイしたのですが、ハズレでした。
ヒロインとの交流がメインで、公園生活の描写がほとんどありません。
気を抜くと、主人公がホームレスであることを忘れてしまいそうになるほどでした。

たとえば、主人公は、作中でただの一度もゴミを漁らないし、空き缶収集もしません。
何回か、ボランティアの炊き出しに並ぶシーンがあるくらいで、
あとはエンプティがコンビニで売れ残った弁当を調達してくれるため、食う物に困らないからです。
他にもエンプティは、住む場所のない主人公に寝泊りするテントを提供したり、
日雇いの仕事を斡旋したり、至れり尽くせりのVIPな対応をしてくれます。
仕舞いにはお金まで貸してくれる始末です。
お金を貸すときに、エンプティが冗談交じりに「トイチだよ」と言いますが、
一瞬、「それくらいで当然」と本気で思ってしまいました。

上記したパンの耳を貰うイベントにしても、相手はヒロインだから、物を乞う屈辱は一切ありません。
公衆の面前で「くるるっぽ〜」と鳩語? で、
「鳩」に「パンの耳を頂いたお礼」を言わされてしまいますが、面白いだけで悲愴感は皆無です。
主人公が、女にラブホテルの部屋代を奢って貰う場面で、僕がふと思ったのは、
「その金で何日分の飯が食えるだろうな」ということでした。
いや、冗談抜きで。読んでいるこっちがホームレスになった心地がしましたよ。

主人公がホームレスである必然性がまったくないところに、本作のマズさがあります。
それでも、もし仮に、丹念に取材して、一般人があっと驚くような
ホームレスの実態などが盛り込まれていれば、何の問題もなかったのだろうと思います。
でも、実際は、誰もが知っているような通り一遍の要素しか盛り込まれていません。
明らかに取材不足で、もちろんそれが作品の本質でないことは理解しているのですが、
どうしても薄っぺらな印象を受けてしまいがちでした。


人間ドラマは◎

甘過ぎるホームレス生活を抜きにすれば、本作は、なかなかの良作です。
それぞれに悩みを抱えた人間が公園に集まり、
微妙な距離感を保ちながらも少しずつ歩み寄り、交流を深めていく様は、なかなかの見物でした。

ホームレスになった主人公と、悩みを抱えて公園に逃避するヒロインたち。
ゲームを始めるとすぐに主人公の奇抜な設定に興味を惹かれたし、
元々ヒロインに悩みがあるというのも話が分かり易く、目的意識を持って読んでいけるため退屈しませんでした。
最初は、ヒロインのプライベートなことについてはほとんど分からず、
少なくとも宿無しの主人公よりは、マシな人生を送っているかのように思えるのですが、
仲良くなるにつれ段々と、ヒロインの屈託した一面が見えてくるようになります。
この辺りの話の運びは上手いと思いました。

あと、上手いなと思ったのがHイベントのタイミングが自然だったことです。
本作は、一緒に寝ても何もしないことがあります。
手を繋いだまま寝たり、抱き合ったまま寝たり。
最近は、キスとSEXを一緒に済ませてしまうような、
あくせくした作品が増えているので、女の子の隣で悶々としたまま一夜を過ごす、
甲斐性無しの主人公が微笑ましかったです。

Hが「ノルマ」とか「お約束」になっていなかったことが、
他の作品との大きな違いですね。本作は、奇抜な設定ながら、
本当の意味で「普通」の恋愛ゲームに近いところがあったのではないかと思います。


総評 B

予想以上にポジティブな雰囲気で、テンポの良さと相まって、さわやかな作品でした。
主人公を「ホームレス」ではなく「ヒモ」くらいに思っておけば、期待外れにならずに済みそうです。

あと、内容とあまり関係ありませんが、僕は、本作のように、
単品で出てくる女子高生ヒロインがけっこう好きだったりします。
学園モノに登場するヒロインも、全員が女子高生に変わりはないはずですが、
主人公の目線(学生か社会人か)が違うだけでまったく違って見えますね。

高校生が同級の娘と付き合っているとして、
「俺、今、女子高生と付き合ってんだけど――」なんて言いませんよね。
だから、学園モノの場合、女子高生は属性になり得ないというか…。
…まあ、どうでも良い話です。





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