PP -ピアニッシモ- 操リ人形ノ輪舞

オススメ度:★★★☆☆ / キャラ:★★★★☆ / シナリオ:★★★☆☆



※こちらはネタバレありの感想なのでご注意ください。


カルタグラの影

思わせ振りなプロローグ、美麗なCG、聴かせるBGM、外連味溢れる魅力的な登場人物。
原画が同じであることの影響が大きいのかもしれませんが、冒頭から前作に似た雰囲気を持った作品ではありました。
でも、それはこちらの望むところで、
僕が前作の『カルタグラ』をプレイして気に入った『InnocentGrey』の良さが遺憾なく発揮されており、
素晴らしく期待通りでした。

僕が「これはまずいぞ」と思い始めたのは綾音が惨殺されるシーンからです。
前作で凛が殺されたときのことが真っ先に思い浮かびました。
ぶっきらぼうな主人公が一瞬でも気を許して愛し合った女性が、
惨たらしく殺されるという共通の一点が、どうにも引っかかったのです。
それだけなら何ともなかったのですが、その後も、前作を想起させるような設定や展開がてんこ盛りで、
読んだ尻から『カルタグラ』の影がついてまわるような状態でした。

謎の天才少女、御巫久遠の存在は、同じく天才という設定だった高城七七を彷彿とさせます。
久遠に瓜二つの姉がいる設定も、上月和菜と同じです。
話の停滞した感じも似ていました。
前作同様、一般庶民の主人公は事件捜査に積極的に関わることはできません。
綾音が殺されたことで隠れ家に引き篭もって、うだうだやっているだけです。
SEXだけはバッチリやるところも同じ。
妹とヤっちゃうところも同じ。
そうこうしている間に、周囲の凄い人たちが色々動き回って事態が進展、
解決への道筋ができあがるところもまでも同じでした。
どれもが決定的に似ているということはないのですが、『カルタグラ』の設定を組み替えることで
本作の8割くらいは説明できてしまうのではないかと思ったくらいです。

手をかえ品をかえネタをリサイクルするのは構いませんが、もう少し新しい要素を入れてもらえると嬉しかったです。
前作を知らない人には新鮮でも、ここまで要素が被っていると、
前作をプレイ済みの人にはほとんど驚きがなかったのではないでしょうか。
特に綾音の死ぬ場面などは、「あぁ、今回もその手口か」と思った人は多いと思います。
少なくとも僕にとっては、驚きよりも、呆れ、疲れが先行したイベントでした。


おかしな展開

前作に似た設定や展開も気になりますが、それ以上にマズかったのが、終盤のおかしな展開でした。

葵に銃で撃たれて瀕死の琢磨を休ませずに家捜しを続行した主人公の行動は不可解です。
シナリオの構築に苦しんだ作者の苦労の跡が伺えます。
というのも、琢磨はこのシーンで殺される必要がありました。
そしてCGの都合で撃たれる場所も階段でなければならず、
なおかつ家捜しをして写真と証拠を見つけることもシナリオの進行には必要な状況でした。
結果として、撃たれたときに助からないと悟った琢磨が主人公に傷を隠して家捜し続行、となったのでしょう。
演出を見た感じだと、数発撃たれているし、
血も相当出ているだろうから家捜しを続行した主人公の行動はどう考えても不自然です。
主人公は琢磨を嫌っているとはいえ、相手の命まで秤にかけて利用するような男ではなかったはずですから。

もう一つ、ルートは違って、今度は綾音と屋敷に侵入したとき、葵に追い詰められた主人公たちは間一髪、
外部からの狙撃によってことなきを得るのですが、その後すぐに脱出せずに家捜しを続けるのは、やはり無理があります。
誰がどこから何のために狙撃したのかも分からないのに、
何の疑問もなく狙撃のあった部屋にとどまって証拠を探すというのは自殺行為。
プレイヤーには護堂がやったのだろうと想像がつきますが、主人公たちには分からないことです。

異能者同士の激突のように描かれる終盤の戦闘も変です。
ダサい軍服モドキを羽織って、主人公の窮地に颯爽と現われるバーのマスター。
何をするのかと思えば、飛んできた銃弾を軍刀で叩き切るというのだから参りました。
放たれた銃弾を軍刀で真っ二つにするのなんて、序盤の落ち着いたジャズバーの雰囲気とはまったく噛み合いません。
これは前作をプレイしたときにも思ったことですが、
『InnocentGrey』は、こういう漫画的なアクションが好きなんでしょうね。
正直、前半部分で良い具合に演出してきた雰囲気を、ぶち壊してまで入れる必要があったのか疑問です。
拳銃を片手にスマートに決めれば、それほどおかしなことにはならず、静かな盛り上がりをみせたと思います。
シナリオも、前作ならここからもう一転したのですが、本作ではあっさり解決してしまいますし、踏んだり蹴ったりでした。


総評 B→D

厳しいことを言うのであれば、「ミステリー」と公言している以上、
「リフ=ラフ」は存在してはいけませんでした。
一つのエンディング(オチ)としてなら十分アリだと思うのですが、
全編通じての解答がSF兵器では多くのプレイヤーの賛同を得ることは難しいと思います。
一見、SF兵器でなければ起こりそうにない事件が、実は様々な要因と人の感情が交錯することで起こり得てしまう。
僕は、そういった驚きのタネ明かしを待ち望んでいたのです。
離れた場所から人を狂わすことができる小型兵器(リフ=ラフ)が、
元凶だったなんてオチは見たくなかったです。

本作では、第一の事件と綾音の事件が、人の手によるものだとされていましたが、
裏づけが中途半端で、べつに人がやろうが「リフ=ラフ」を使おうがどっちでも良いような展開でしかなく、そこが残念でした。
綾音の事件は特に歯切れが悪く、密室殺人の犯人が家主だと分かったところで何の驚きもありません。

雰囲気作り以外の全てが大失敗な作品。
スタイリッシュミステリィAVGとはよく言ったものです。
ミステリィのリィが普通にリーじゃないところまで格好つけているようで困りました。

とにもかくにも「グロ」と「狂気」と「SFアクション」を三題噺のごとく詰め込むのはやめるべきです。
僕は、グロや猟奇系の作品で物語をしっかりやってくれるメーカーさんがあることは大変嬉しく思います。
でも、前作と本作、2作品をプレイした感触からすると、
どうも『InnocentGrey』の得意としているのは、まったくちがう方向性の作品ではないのかな、と。
前作で言えば遊郭の雰囲気。
本作で言えば序盤のジャズバーの空気感をもっと前面に押し出すような、
正統派で古典な作品がハマると感じました。
粋なマスター。
流れるのは、軽快なジャズミュージック。
序盤の、バーを舞台にしたピアノ弾きの日常は、
思わず酒が欲しくなるほどに、楽しく心地良いひとときでした。
『InnocentGrey』には18禁な(大人な)雰囲気のセクシーなやつを一本作ってもらいたいです。
殺人事件はもう勘弁。
今度こそ本当にスタイリッシュな作品を作ってくれることに期待します。

ちょっと気になったこと。管理人の独り言。
ライターが前作と変わっているのに、懲りずにまた空気の読めないSFアクションをやっているということは、
おそらくその背後に、くだらない剣戟アクションを面白がっているお寒い開発スタッフがいるに違いありません。

『カルタグラ』も『PP -ピアニッシモ- 操リ人形ノ輪舞』もプロデューサーと原画担当は同じでした。
前作と似通った要素が散見する本作を見るに、
プロットを考えているのはプロデューサーか原画家のどちらかではないでしょうか。
ライターが2人いて、その2人ともが同じように不自然な超人バトルを書こうとするのは、普通では考えにくいです。





inserted by FC2 system