レコンキスタ

オススメ度:★★★☆☆ / キャラ:★★★☆☆ / シナリオ:★★★★☆



※少しネタバレしてます。

コットンソフト2作目は、非日常と日常の溶け合うサスペンスホラー。
個人的には、骨髄移植された患者が、
骨髄の提供者と同じDNAと血液型になるというネタに、着想を得た事件ストーリーがとても気に入りました。


実感のこもった人間描写は健在

たとえば、槙野(主人公)と娘のもみじがシャンプーをする場面。
もみじは目を閉じるのが怖くて、それは後ろに見知らぬ誰かが立っている気がするからなのだそうです。
作者の子供の頃の実感がこもっているようで、説得力のある描写でした。
言われてみれば、僕も小さい頃に同じような怖さを感じていた気がします。
シャンプーハットという懐かしい小道具が、読み手の古い記憶を刺激して、
物語と現実との接点を上手い具合に掘り起こすのでしょうね。
この辺りの描写は相変わらず上手くて、こなれた感じがしました。

とある児童書を読んで勇気づけられたことがある、とヒロインが槙野に話す場面では、
物書きのこそばゆい感じがよく伝わってきました。
実は、その児童書は槙野が書いたものなのですが、それをヒロインに秘密にしたまま心の中で大喜びする姿。
でも、本を褒めるヒロインに思わず「ありがとう」なんて言ってしまう、おっちょこちょいな姿。
槙野が自分の作品を褒められて舞い上がっている様子は、人間以上に人間らしいようで親近感を覚えます。

ところが、非日常の描写になると途端に勢いのなくなるのが残念でした。
中でも、詩菜が親友の身代わりになり、自らの胸にナイフを突き立てる場面。
あれはいけません。どうにも納得いきませんでした。
もし仮に、身代わりとして人質になるのであればOKだったと思います。
でも、あの場面で自殺する意味はまったくありません。
死んでしまったら、無事に友人が解放されるかどうかも分からないし、そもそも交渉になりませんからね。

日常の細かな機微はいとも簡単に描いてしまえるのに、
非日常の緊張感のある描写になると途端に筆力の落ちるのが不思議です。


綿密なプロット

本作は、視点を変えて一つの物語を多角的に読ませようという、
ありふれたゲームデザインの作品ですが、新しい工夫があってこれがなかなか面白いことになっています。

攻略するヒロインが変わることで、ストーリーが分岐(変化)してしまうADVの制限を、
主人公を2人たてることで解消しているのには感心しました。
通常、主人公が1人の場合、2周目に攻略ヒロインを変えると、
1周目と2周目でシナリオが食い違ってしまい、正確なザッピングにはなりません。
ところが本作では、2人の主人公に攻略するヒロインを分担させることで、
シナリオは変わらないままに、1周目と2周目で全く違ったテキストを読ませるという面白い構成になっているのです。
簡単に言えば、1周目に読んだ内容のことが、2周目にも自分の読むテキストの裏側で常に起こっているという状態が本作です。

3周目、4周目…と回を重ねながら、途中、ヒロインや犯人の視点も混ざり合い、
結果的に「レコンキスタ」の世界観を隅から隅まで体験できる仕組みになっています。

さらに、事件の発端となる過去の出来事が描かれることで、厚みのある事件ストーリーが完成します。
最終のシナリオでは、今までに積もっていた疑問のほとんどが解消されました。
様々な登場人物の視点から、1周目、2周目で体験したストーリーをもう一度見ることができて、
選択肢により今までとはまったく違った新しい可能性が発見できる仕組みです。
それは、ほんの些細な一言や、ちょっとした行動だけれど、結果は大きく変わって…。
思わぬ新展開に、ぐっと引き込まれました。
最後の盛り上がりがしっかり計算されていると、終わったときの心証は全然違います。

主人公が1人だとただのB級ホラーで。
主人公が2人で作品としての恰好がついて。
一見、事件と無関係そうな周囲の登場人物と、
物語との重要な関連性を描くことで、最後の最後に大きく値打ちを上げている。

そんな印象の作品でした。
序盤が少し間延びしていたように思うので、そこを短縮できていれば、
もっともっと満足度の高い作品になっていたのかもしれません。


総評 B

完成度だけで言えば、文句なしにA評価の良作。
ただ、物語の1から10まで、綿密に作りこまれた世界観の全てをさらけ出していたのは、
かえって仇になっていた気もします。

一部の隙もない、よくできたシナリオであることは確かなんです。
けれども、全てが丸見えで、余韻のないのが物足りません。
想像で補う余地がまったくなくて、クリアしたらそこできっぱり「終了」するしかないのが、
贅沢だけれどちょっと寂しい感じがしました。

ひょっとすると、詰め込む要素が多すぎて読み手に解釈を委ねる余裕がなかったのかもしれません。
ドナー問題、命の大切さ、DNAと魂、近親相姦、伝奇的要素…。
テーマを一本に絞っていないので、読み手に深く訴求することが出来ずに終わっていたのが、
物足りなさの原因だったように思います。

辻褄の合った緻密なストーリーの展開は「納得」にはつながるけれど、作品の「娯楽性」とはまた別問題。
エピソードの取捨選択をあえてやらずに、1から10まで全てを見せたアイデアは、
ADVならではという感じで面白かったけれど、
そのぶん起伏のないシナリオになってしまった点は明らかにマイナスで、一長一短のゲームデザインでした。





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