灯穂奇譚

オススメ度:★★★★☆ / キャラ:★★★★☆ / シナリオ:★★★★☆



祖母の遺産整理のために実家の村へ帰った主人公(永井桐人)は、
そこで十年ぶりに幼馴染(加茂カナタ)と再会する。
大学で民俗学を専攻している桐人は、カナタの手を借りて、
村に伝わる伝承について調べはじめるのだが……。
導入部分は大体こんな感じで、おもいっきり伝奇物です。
基4%さんが原画担当というだけで即買いしたゲームですが、期待以上に楽しめました。


このゲームは…

ケロQのゲームを買う感覚でいれば、まあ、当たらずとも遠からず、なんじゃないでしょうか。
小ぶりながら、テイストは非常に似通っていると思います。
原画が基4%さんで、ヒロインの声が成瀬さん、というだけで、
なんだか『モエかん』チックな印象になってしまうから不思議。
ギャグシーンでデフォルメ絵を使うところや、ちょっとインテリ風なテキストもそれらしくて、
パッケージにケロQのロゴが付いていたとしても違和感はなさそうです。


同人なんだけど…

同人ゲームには、業者さんが作るゲームと違って、型破りな、
既成概念に捕らわれない部分というのが多かれ少なかれあるものです。
それはサークルさんの個性であり、同人ゲームの面白さの一つでもあります。
ですが、今回に限っては、いわゆる「同人臭さ」のようなものは、一切ない方が良かったと思っています。
同人特有の手作り感や、自由な文章表現が、逆に"欠点"になってしまっているからです。

ところで、同人ゲームというのは、やはり「同人臭さ」に期待してプレイする部分が大きいのでしょうか?
僕は『灯穂奇譚』のように、たとえ同人でも、オリジナルの作品からは、
極力、「同人臭さ」を出して欲しくないと思っています。

主人公とヒロインが、長々と会話するシーンで、しつこく出てくるのですが、
『昇○拳』とか、『シャーロック・ホームズの伯爵令嬢誘拐事件』とか、正直、どうでもいいネタじゃないですか。
物語と無関係なネタをしゃべらせることで笑いを取るやり方は、
真面目な物語であればあるほどやらない方が無難です。
本作のテーマは、真面目も真面目、大真面目ですからね。
ゲーム全体として良くできているだけに、そういう安易な部分が非常に目立ってしまいます。
物語の尺が短めな本作の場合、ヘタすれば、
そのしょうもないネタばっかりが印象に残ってしまうかもしれません。
これでは読み物としてマズいワケです。
ニヤニヤしながら執筆している書き手の姿が透けて見えると、
せっかくの雰囲気が台無しになります。

『KANOSO』や『ONF』のようなパロディが売り物の作品であれば、
そういうノリは大歓迎なんですけどね。
元ネタをダシにして、どれだけ面白いことを言えるかが勝負だと思うので。


ボリューム不足?(前半部分はネタバレです。反転させてお読みください)

本作の中で、伝奇物が好きな人間にとって、
一番の興味の対象というのは「神社の奥にある黄泉への入り口」についてだと思います。
「左右を障子に挟まれた、果ての見えない長い板張りの廊下」であったり、
「人の寿命を表す灯穂」であったり……。
ナミとの会話の最中に、プッツリと意識が断絶して、ハッと現実に引き戻される、
みたいなシーンがありましたが、あれは良かったですね。
異世界の底知れなさが良く出ていて、思わずドキッとさせられました。
ただ、ナミの存在に異世界の深さを感じさせられる一方で、
ビジュアル的には、イマイチ、広さ、深さ、を感じることができませんでした。
多分、主人公が異世界を歩き回っているときの、
画面の展開のさせかたがマズかったからだと思うんですけど、実際どうなんでしょう。
背景CGが足りないなら、ループさせたり、行ったり来たりを繰り返させれば、
もう少し「迷い込んだ感」が出せたと思うんですけど……。
まあ、なんにせよ、こういうシーンは、プレイヤーに「戻れないんじゃないか?」と思わせないといけませんよね。
目を瞑っただけで行き来してしまえるような場所だけに、不安感を煽るのは難しかったと思いますけど。
長い廊下で、どこまで歩いても戻れなくなってしまうシーンがあって、
そのときに、案外あっさり戻れてしまったのが良くなかったのかもしれません。
この先、どうなるのか分からなくて、ちょっと怖かっただけに、拍子抜けというかなんと言うか……。
主人公はクタクタだけれど、プレイヤーはそうでもないぞ、みたいなズレはできるだけない方が良い。
つまらんネタを引っ張るくらいなら、こういう場面こそ、もっとしっかり引っ張らんかい、と思うんですけどね。
そうすれば、プレイヤーの方も気疲れして、ちょうど良い具合になるじゃないですか。

村の描写にしても同じことです。
種明かしがあるなら、もっときちんと書いておかないと。
実質、主人公の家と、幼馴染の家しか出てきませんからね。
長々書く必要はないですけど、せめてどんな様子か分かるくらいには書いて欲しかったです。
全てが分かったときに、なんにも思い返すものがないのでは寂しいです。

(↑ココマデ)

僕は、本作がボリューム不足だと言われるのは、内容の良さに反して、余韻が残らないからだと思っています。
理由として、一番分かりやすいのは、EDのスタッフロールがしょんぼりなところですね。
普通に、本編で出てきたCGを使って作ればいいのに、RPGのようなドット絵キャラが登場するんです。
見てる側としては、一瞬、「えっ」って、なるんですよ。
流れる音楽のチョイスも、笑ってしまうくらいに、プレイヤーの心境と違っています。
感動的な物語なんだから、最後はしっとりと締めて欲しかったです……、それこそ余韻を残すように。
せっかく良い雰囲気で終わっていたのに、最後にケチがついてしまったというかね……。もったいないなぁ、と。


総評 B

面白かったけれど、ついつい「もっとがんばれ!」と言ってしまうゲーム。
"良いところ"も多いけれど、"良くなりそうなところ"が本当に多いです。

小さくまとまっている印象なので、ともすれば手を抜いているように見えてしまうのが損ですね。
というより、遊びすぎていると言ったほうが正しいのかもしれませんが(^^;
上で指摘した「昇○拳」など、臭いくらいの同人クオリティが本作のユルさ加減を物語っています。

もし、次回作を出すことがあるなら、
「もう無理。一歩も動けねぇ」ってなくらいに全力で突っ走った作品が良いです。
同人だから出来るおふざけも楽しいけれど、同人だからこそ可能な鋭すぎる表現というか、
創作エネルギーの発露というか、そういう生のモノを押し出した作品を見てみたいと思います。
ちょっとくらい不恰好でもいいじゃないですか。
そういう「同人臭さ」なら、僕は大歓迎です。





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